2017年1月10日
聴き上手は相続上手!?

聴き上手は相続上手!? 心理学から見た遺産相続

「相続」という言葉を聞いて、自分には関係ないと思う人も多いかもしれない。しかし人間、いつ何が起こるかはわからない。高齢の親がいる人にとって、相続は意外に身近な問題なのだ。万が一のとき、遺産をめぐって兄弟姉妹が争うことのないよう、どんなことを心がけておくべきなのか。今回は心理カウンセラーであり、公認会計士、税理士でもある藤田耕司氏に話を聞いた。

相続のもめる要素とは?

−遺産相続で兄弟姉妹がもめるのはどんなケースでしょうか?

藤田:親が土地を持っている人ですね。現金や預金は、単純に兄弟姉妹の数で割ることができますが、相続する財産が一筆の土地しかないような場合は、兄弟で財産を分けることが難しくなります。また、土地の値段は専門家に試算してもらわないとすぐにはわかりませんが、大通りに面している場所や再開発が進んでいる地域などは、驚くほど高い値段がつくことがあるので要注意です。もめないためには、現金、土地、株式など、誰が何を相続するのか、兄弟姉妹同士で事前に決めておくのが一番です。そのためには相続財産として何がどれくらいあるのか、きちんとリストアップしておかないといけません。

−相続のことを考えないといけないのはわかっていても、なかなか切り出しにくいようです。

藤田:お金が絡む話なので、さすがに直接的には言いにくいですよね。代わりに間接的に伝えてみるのはどうでしょうか。例えば「友達の親御さんが亡くなって相続でもめているらしいよ、うちはそういうことでもめたくないよね。」というような話を雑談の中に交えるのがいいと思います。

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図1遺産相続(分割)事件数 出典:家庭裁判所 総務省統計局 司法統計

−大人になって独立すると、親や兄弟姉妹と話すことも少なくなりますね。

藤田:お盆や正月など、親きょうだいが集まったときに思い出話をすることもあると思います。過去の物語を共有することは、人間関係を構築するのに非常に大事なことなので、そういった話をしてもらうことから始めるといいでしょう。

話を聞くことから相続は始まる。『聴き上手』の秘訣は

親にしろ兄弟姉妹にしろ、それぞれ生きてきた背景が違うため、それぞれの価値観も異なる。にもかかわらず、みんな自分と同じような物の見方、考え方をすると思い込んでしまう。そういった思い込み、「自分ならこうするから相手もこうしてくれるはず」といった“期待”がもめごとの原因になりやすいと藤田氏は言う。

藤田:フォールス・コンセンサス効果という心理学の言葉があります。これは「自分の考え方は多数派で、一般的なものだ。」と思い込んでしまう心理状態に陥ることをいいます。この効果のように、人間は自分にとっての“当たり前”とか“普通”は、世の中的にも一般的なものだと思い込む傾向があります。しかし、“当たり前”とか“普通”という感覚は、人それぞれ違うんです。そこを理解できると、許せなかったことも許せるようになり、話し合いがスムーズになります。まずは「あなたの話を聴かせてください」と、しっかり話を“聴く”ことが大事です。人は、自分の話を聴いてくれる人には心を開きますから。自分の物語を理解してくれる人には、非常に強い親近感を抱くというのは心理学的にあります。

−話を聴き出すこつなどはありますか?

藤田:人間はみんな、話したいんです。それに共感してあげる。上辺だけで「そうなんだ」「わかるわかる」という聞き方ではなく、「それは大変だったね」「よく頑張ったね」というように、心の深いところで共感すること、それが“聴く”ということです。話し上手といわれる人はたくさんいますが、本当の意味での“聴き上手”を探すのは難しいくらいです。

−“聴き上手”になるためには、どうしたらいいでしょうか。

藤田:“聴き上手”になるためには、質問力が問われます。相手が「よくぞ聞いてくれました」と思える質問を投げ掛けることができれば、相手は饒舌に話してくれます。例えば、経営者の方に起業当時の苦労話などを聴いたり、何か趣味をお持ちの方に趣味のことを聴くと、とてもよく話してくれます。

 

藤田氏によれば、ほとんど実家に寄りつかなかった長男が、親が亡くなった後、何年も親を介護をしてきた長女と相続でもめたケースもあるとのこと。介護にかかる労力や費用、心理的な負担は相当なものになる。単純に2分割では長女が納得できないというのも無理はないだろう。

比較しない心がけは、人間関係と相続を円滑にする

−親子関係やきょうだい同士の関係が希薄だと“争続”になりやすいのでしょうか。

藤田:兄弟で話し合うときに大切なのは“比較”をしないこと。比較を始めると、どちらかに負の感情が芽生えます。例えば、1000万円の財産を相続できると聞くと、多くの方はありがたいと思うでしょう。しかし、ほかの兄弟は3000万円ずつもらえると知ってしまうと、感謝の気持ちは失われ、とたんに不満や怒りが生じるでしょう。比較をしなければ感謝できていたことが、比較をしたとたんに不満や怒りに変わる。それが“比較”の怖いところです。

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図2 遺産相続(分割)事件数 出典:家庭裁判所 総務省統計局 司法統計

一説によると、人間の体は4カ月もするとほとんどの細胞が入れ替わるらしい。それはある意味、別の人間になるということだ。にもかかわらず自分を自分たらしめているのは“記憶”なのだと藤田氏。

−自分の存在とは、すなわち記憶。記憶の質が人生の質と言ってもいいくらいですね。

藤田:記憶の質を決めるのは、感情の質です。一生のその時々をどのような感情で過ごすかで、記憶の質は決まります。きょうだいの縁は一生切れません。ですので、遺産相続でもめると、嫌な感情をずっと抱えたまま、その先の人生を歩んでいくことになってしまいます。それは人生の大きな割合を占める時間において、感情の質を大きく下げることになり、それは記憶の質も大きく下げることにもなります。つまり、相続でもめて損をするのは“自分”なんです。いくらの財産を相続できるかという視点だけではなく、生涯の感情の質をいかに良い状態に保つかという視点も持つことで、相続に対する向き合い方が変わってきます。そういう価値観を兄弟同士で共有することが大切だと思います。

「いくら財産があっても、質の悪い感情や記憶に煩わされた一生ならば、それは不幸な人生と言わざるを得ないでしょう。財産の金額にかかわらず、質の良い感情や記憶にあふれた人生なら、それは幸せな人生なんです。」と藤田氏は締めくくった。

取材・文/堀井塚高  取材協力/藤田耕司 公認会計士・税理士 写真/PIXTA

【プロフィール】

藤田耕司(ふじたこうじ)

心理カウンセラー、公認会計士・税理士、一般社団法人日本経営心理士協会 代表理事、FSGマネジメント株式会社 代表取締役 
早稲田大学商学部卒業後、有限責任監査法人トーマツを経て現職に至る。日経新聞「post 2020〜次世代の挑戦者たち〜」をはじめ5本の連載を持ち、ラジオなどにも出演。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『相続が気になる全ての方へもめないための相続心理学』(中央経済社)などがある。

 

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