2017年2月2日
子どもが国際結婚で海外生活。遺産分割や相続手続きは何が違う?

子どもが国際結婚で海外生活。遺産分割や相続手続きは何が違う?

親の財産がすべて国内にある場合でも、相続人となる子どもが1人でも海外に居住していると、遺産分割や相続税の申告・納付、相続した財産を引き継ぐための手続きも簡単ではない。そんな場合に注意したいポイントなどを紹介しよう。

留学、海外赴任、国際結婚など…、海外居住者は増えている

学生時代に留学したのをきっかけに、また仕事で海外赴任になったことから、そのまま外国に住み続けている人は少なくない。知り合いや友人でも、外国人と結婚して海外に居住している人は結構いるのではないだろうか。ここ数年は若い人でも国内で就職せず、海外で仕事をして暮らしている人たちも増えてきた。
このように、海外に住んでいる日本人の数は年々増加している。外務省の調べによると、2015年時点で海外在留邦人の数は約131万7000人で、このうち長期滞在者が3分の2、残り3分の1が永住者だという。

在留邦人が最も多い国はアメリカで、次が中国、オーストラリア、イギリス、タイ、カナダという順だ。年齢別では、20歳未満を除いて最も多いのが40歳代で、次が30歳代(以上、外務省・海外在留邦人数統計調査より)。この世代の海外居住者は、将来、日本に住む親の相続で面倒な事態に直面するかもしれない。家族やきょうだいの中で海外に住んでいる人がいたら、親の相続の際、どのように対処すればいいかを知っておくことが重要だ。

遺言書がないと、海外居住者は遺産分割協議も大変だ

相続人の中に海外に居住している人や、外国籍を取得した人がいても、亡くなる親が日本人なら、相続は日本の法律に従って進めなければならない。法定相続人の範囲や相続の順位、遺産分割の方法や相続税の申告も、すべて日本の民法や税法、手続きに合わせて行うことが必要になる。
例えば、親が亡くなった場合、遺言書がないと、海外に住んでいる子どもは遺産分割の話し合いや手続きのために、度々、帰国しなくてはならない可能性がある。
一般的に日本では、親が亡くなると通夜・葬儀などを優先し、遺産分割についての話し合いは四十九日の法要を過ぎてから行われることが多い。遺産分割協議は原則として相続人全員が参加して行うことになるため、最低でも1回は全員で顔を合わせて話し合うことが必要だ。
遺産の分け方でモメたりすると1回では決まらず、日を改めて何度も話し合わなければならないこともある。
最近はインターネットの普及で、海外にいてもメールなどで連絡を取り合うことはたやすくなったが、相続人の間で遺産分割に対する考え方や思惑が異なると、話し合いはスムーズに進まず、メールや電話では済まないこともある。また、「日本にいるきょうだいだけで話を進められるのは嫌だ」と思う人もいるだろう。そうなると、帰国のための時間のやりくりやお金も大きな負担になってくる。


遺産の分け方が無事に決まったら、その内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員で署名・押印し、印鑑証明書や住民票などを準備しておくことが必要だ。こうした書類がないと、相続した預金の払い戻しや不動産の名義変更といった相続手続きはできないからだ。 その際にも、海外に住む人は必要な書類が用意できずに、困ることが多い。
日本では重要な書類には印鑑を押すのが通例で、不動産の売買契約などにも実印の登録と印鑑証明書は不可欠。しかし、国内に住所がある人でないと印鑑登録はできず、当然ながら印鑑証明書も住民票も取得できない。そのため、「海外居住者はこれらに代わる書類として、自分の<サイン証明>と<在留証明書>を居住地の日本大使館または領事館で取得するなどの対応が必要」と、税理士の早河英太さんは助言する。

相続税の申告は税理士に任せても、納税資金の準備は必要

相続税がかかる場合、通常は税理士に申告業務を依頼するため、海外に住んでいても、申告書の作成から提出まで税理士にやってもらえる。しかし、取得した遺産に応じた納税資金は、相続人それぞれで準備することが必要。相続税の納付は申告期限と同じで、相続開始から10カ月以内。現金での一括納付が基本だ。税理士から納税額を確認したら、その金額を振り込みで納付できるように手配しておくことも重要になる。
相続した預金などから納税しようと思っていると、海外居住者の場合、前述のような書類の用意などで、受け取るまでに予想以上の時間がかかることもある。相続した不動産を売却して納税資金に充てようとすれば、さらに時間がかかり、期限までに売却できないこともある。相続税がかかりそうなら、海外に住む人は特に、早めに税理士に納税額を試算してもらい、あらかじめ日本円の自己資金で用意しておくことが必要かもしれない。

海外居住者は国内では新規に口座が開設できない点に注意

海外居住者が遺産を受け取るまでに時間がかかる理由の一つは、国内の金融機関では新たに口座を開設できないため、自分の口座で直接受け取れないこともあるからだ。

相続手続きは、受け取る遺産の種類や遺産分割の方法によっても異なる。ここでは大きく金融資産と不動産に分けて、一般的な相続手続きの流れを紹介しよう。
金融資産の場合、銀行などの預貯金と、株式や投資信託などの有価証券では相続の手続きや受け取り方法が異なることも知っておこう。

相続手続きは、受け取る遺産の種類や遺産分割の方法によっても異なる。

預貯金の場合、海外居住者でも日本国内に銀行などの口座を残していて利用可能なら、所定の手続きが済めば、その口座に金融機関から相続分を振り込んでもらい、受け取ることができる。しかし、国内に自分名義の預金口座がない場合、新たに口座をつくることができず、受け取り方法で悩むことも(海外口座への送金対応は金融機関によって異なる)。

一方、証券会社の相続手続きは通常、同じ証券会社の口座に名義変更した株式などを移すことになる。株式や投資信託、債券などは、名義を書き換えて本人名義の口座に移さないと、売却も換金もできないのだ。被相続人が取引していた証券会社に口座を持っていれば手続きは簡単だが、口座を持っていない人は、同時に口座を開設することを求められる。海外居住者はそれができないため、困ることが多い。別の証券会社に口座があれば、そこに移してもらえることもあるが、面倒な手続きと手数料がかかることも。

どちらの場合も、国内に住む相続人の中から代表者を決め、その代表者がまとめて受け取ってから、各相続人に分けるという方法もあるが、そのためには相続人全員の同意書、もしくは委任状を用意することが必要。株式などは相続時と手続き後では価格が変動するため、売却のタイミングにも全員の合意が必要になるかもしれない。

不動産を相続する場合は、海外居住者でも必要な書類さえ準備すれば通常通りの方法で名義変更ができる。司法書士に依頼して用意する書類を確認するといい。その場合も遺産分割協議書に添えるサイン証明や在留証明書は不可欠のため、事前に準備しておくと安心だ。

不動産名義変更の流れ_2

海外に住む子どもがいれば、親は遺言書などの準備が必須

海外に住む子どもがいたら、遺産を引き継ぐのもひと苦労であることを親に理解してもらい、家族で話し合って、親には何らかの対策や準備をしておいてもらうといい。例えば、早めに遺産の分け方を考えて、海外に住む子どもに相続させる分は、株式などの有価証券はやめて、生命保険の保険金や信託にしておくのも一つの方法。これなら相続手続きは比較的簡単で、海外居住者も遺産を受け取りやすくなる。同時に、その旨を遺言書にしておくことが重要だ。

どのようなケースでも遺言書があれば相続手続きはしやすくなるが、できれば公正証書遺言にするほうがいい。自筆の遺言書の場合は、亡くなった後に家庭裁判所での検認が必要で、相続手続きの際はその検認済証明書も添えることになる。また、遺言書をつくるときは、相続人の代表者か、税理士や弁護士などの専門家を遺言執行人として指定し、その人に相続手続きを任せるのも一案だ。「相続人が子ども1人で、海外に住んでいるなど国内で手続きをしてくれる人がいないと、それこそ大変なことになる。国内に遺言執行人がいれば、金融機関の相続手続きもスムーズにできる」と、早河税理士。

取材・文/光田洋子(インタープレス) 写真/PIXTA
取材協力/税理士・早河英太さん 東京国税局に採用後、財務省主税局・国税庁資産課税課等で、資産税制の企画立案・審理業務、国際的租税回避スキームに対応する業務や、国際資産税に係る税務調査等に従事した後に退官。大手税理士法人を経て、現在は国際資産税や事業承継を中心とした資産税全般の申告・税務アドバイザーとして活動中。税理士を対象としたセミナー講師や、税務専門誌での執筆も行っている。

 

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