2017年3月13日
親が認知症になったとき、財産の売却や相続はどうなる?

親が認知症になったとき、財産の売却や相続はどうなる?

「親が認知症のため施設に入ることになった。親名義の不動産を売り、費用に充てたい」。近年、そんな需要が高まっている。しかし、たとえ本人(親)のためであっても家族が勝手に不動産を売ることはできない。 このように判断能力が衰えた本人に代わり、法的なサポートを行うのが「成年後見人」だ。親が認知症と診断された際の成年後見人の役割と、選出するときの注意点を解説する。

「本人の意思確認ができない」と判断されると売買契約は結べない

実家が所有する不動産は、何となく「家族みんなのもの」という意識があるかもしれない。しかしいざ売却となったとき、名義人が親であれば、本人の意思確認が必要になる。
親が元気なときは、「売却する」という意思が確認できれば、子どもが親を代行して書類準備や手続き、立ち合いなどを行うことはできる。もし親が「体力の衰えを理由に施設に入る」などの理由で手持ちの不動産を売却したい場合は、親の意思を受けて子どもが代行するほうが面倒はない。

理由は、たとえ親子間であっても、名義を変えるときには「売買」か「贈与」のどちらかが一般的で、売買であれば相場と同等の値段で取引しなければならないからだ。時価とかけ離れた、形だけの金額で売買した場合、差額は贈与とみなされ、贈与税の対象になる。

不動産の売却は、売主(名義人)、買主、仲介業者がいる場合は仲介業者、買主が融資を利用する場合は融資先銀行の担当者、そして司法書士が立ち会って行う。
名義人が寝たきりであるなど身体が不自由である場合でも、「売却する」というしっかりした意思確認ができれば契約は有効だ。
しかし、逆に身体は健康そうであっても、その発言や行動などから、同席した司法書士が名義人の「意思確認ができない」と判断した場合、司法書士は決済をストップすることができる。財産の処分に関して、「本人の意思」は極めて重要だ。

判断能力を欠く人の援助者「成年後見人」を選出

近年「親が認知症を発症し施設に入所するので、不動産の売却代金を資金に充てたい」といった需要が増えている。しかし認知症と診断されると「本人に判断能力がない」とされ、財産の処分を行うことができない。
こうしたケースで利用されるのが、成年後見制度だ。これは認知症、知的障がい、精神障がいなどが原因で判断能力を欠く人のために援助者を選任して、法律的なサポートを行うものだ。

成年後見人は本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約、遺産分割の協議などを行える。本人の能力によって、後見(判断能力が全くない)・保佐(判断能力が著しく不十分)・補助(判断能力が不十分)の3つの分類があり、親族、弁護士、司法書士、社会福祉士、法人、市区村長が成年後見人になることができる。最近では一人暮らしの高齢者が増えた最近では、市区村長が成年後見人になるケースも増えている。
成年後見制度の申し立てが行えるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、市区村長などだ。
※成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類がある。「任意後見制度」とは、本人に判断能力があるうちに公正証書を作成して任意後見になってくれる方と任意後見契約を結び、自ら任意後見受任者を選んでおく制度のことである。そして判断能力が不十分になった場合、家庭裁判所に申し立てをし、任意後見監督人が就いたときから効力が生じるものだ。本稿では本人の判断能力が衰えた後に選ばれる「法定後見制度」について扱う。

※1 特定の事項とは、民法13条1項に挙げられている、借金、訴訟行為、相続の承認や放棄、新築や増改築などの事項をいう。
※2 本人が特定の行為を行う際に、その内容が本人に不利益でないか検討して、問題がない場合に同意(了承)する権限。
   保佐人、補助人は、この同意がない本人の行為を取り消すことができる。
※3 民法13条1項に挙げられている同意を要する行為(※4)に限定されない。
※4 民法13条1項に挙げられている同意を要する行為とは「貸金の元本の返済を受ける」「金銭を借り入れたり、保証人に
   なる」「不動産をはじめとする重要な財産について、手に入れたり、手放したりする」「民事訴訟で原告となる訴訟行為をす
   る」「贈与、和解・仲裁契約をする」「相続の承認・放棄、遺産分割をする」「贈与・遺贈を拒絶する、不利な条件がついた
   贈与や遺贈を受ける」「新築・改築・増築や大修繕をする」「一定の期間を超える賃貸借契約をする」を指します。
 

家庭裁判所に「成年後見人」選任の申し立てを行う

成年後見人の申し立ては家庭裁判所に対して行い、記載された成年後見人候補者が適任であるかどうかが審理される。場合によっては候補者以外の弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職、法律または福祉に関する法人などが選任されることもある。
また、成年後見人は後見が終了するまで、行った職務の内容を定期的にまたは随時、家庭裁判所に報告する義務がある。
家庭裁判所に申し立てる際、成年後見人候補者として記載した子どもや親族などが後見人に選ばれる場合もある。しかし家庭裁判所が必要と判断した場合は「後見監督人」を選任して、後見人に対する監督事務を行わせることがある。
後見監督人に選ばれるのは、弁護士や司法書士などの専門家の場合が多い。その場合、成年後見人は行った職務の内容を定期的、または随時に後見監督人に報告しなければならない。
成年後見人や成年後見監督人には報酬が支払われる場合があるが、金額は申し立てがあった際に審判で決定される。この金額は家庭裁判所が公正な立場から決定し、本人の財産の中から支払われる。
成年後見人の選任から不動産売却までの流れは下記となる。ケースバイケースではあるが、成年後見人の選任にかかる期間は1~2カ月だ。売却したい不動産が自宅の場合は、同じく家庭裁判所の許可が必要になるため、別途申し立てを行う。

後見人選定~不動産売却までの流れ

成年後見人との利益相反が起きる場合とは?

成年後見人制度は活用できるが、だれを選任するかによって、相続の際に問題になることもある。
たとえ「不動産の売却」が当初の目的であったとしても、成年後見人として選任された人は、本人が亡くなった際、相続人に財産を引き渡すところまでが仕事だ。
例えば長男が認知症の母親の成年後見人となっている際に、父親の相続が発生したというケースでは、長男は母親の「成年後見人」であり、かつ母親と共同で亡父の「相続人」であることになる。
このような「利益相反」が起きるときは、2つの身分のどちらかを捨てなければならない。方法は下記1~3のいずれかだ。

成年後見人との利益相反の解決法

1・相続放棄し、成年後見人に専念する
2・後見監督人等がいる場合、遺産分割は後見監督人が成年被後見人を代理して行う
3・家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、特別代理人を選任する

特別代理人の申し立てに必要な書類等

申立書(※「裁判所ウェブサイト 後見サイト」からダウンロード可能)
登記事項証明書(法務局で発行してもらう、申立人が後見人等であることの証明書)
成年被後見人等の住民票又は戸籍附票
特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票
利益相反行為関係書面
 遺産分割協議書(案)、契約書、不動産目録など
 ※遺産分割協議の場合、不動産評価証明書など遺産の価値が分かるものの提出が必要になる場合も
収入印紙 800円
切手 460円(82円切手×5枚、10円切手×5枚)
認め印を持参

専門職が成年後見人等に選任されるケースが7割

ところで近年、親族以外の第三者が成年後見人等に選任されるケースが増えている。裁判所による「成年後見関係事件の概況-平成27年1月~12月-」によると、成年後見人等(成年後見人,保佐人及び補助人)と本人との関係では、家族や親族が成年後見人等に選任されたケースは全体の約29.9%で、前年の約35%から減少している。
一方、第三者が成年後見人等に選任されたケースは全体の約70.1%(前年は約65%)となっている。選任された人を専門職別で見ると、割合が最も増えたのは弁護士で、対前年比で約14.9%増加した。選任件数は8000件(前年は6961件)だ。
次は社会福祉士で3725件(前年は3380件)、対前年比で約10.2%の増加。三番目は司法書士で9442件(前年は8716件)となり、対前年比で約8.3%増加している。

血縁者が成年後見人となった場合、既述のように相続の際に利益相反が起きやすい。またそもそも成年後見人の選出の際に、家庭裁判所が本人を取り巻く状況を踏まえて、候補者以外の弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職、法律または福祉に関する法人などが選任されるケースがあるのも見てきたとおりだ。

市民から選出される、ボランティアの「市民後見人」とは

近年、認知症高齢者、一人暮らし高齢者の増加などから、必要とされる成年後見人の数が増えることが見込まれる。各自治体は地域での市民後見人の活動を推進する事業を展開している。厚生労働省の調査では2014年現在で「市民後見推進事業」を実施しているのは158市区町(36都道府県)だ。

市民後見人は、市区町村などが実施する養成研修を受講するなどした一般市民が、家庭裁判所から成年後見人等として選任される。市民後見人は、報酬付与の審判申立は行わないことを前提としたボランティア活動である(業務に要した実費は、後見を受ける本人の資産から支払われる)。
市民後見人が単独で選任される「単独選任型」、市民後見人と専門職等の後見人が複数で選任される「複数選任型」、市民後見人が後見人になり、専門職等が監督人に選任されてサポートをする「監督人選任」を主な形として活動する。

認知症を発症した後の選択肢は限られる

財産を処分するには判断能力が必要になる。判断能力のあるうちに、信託を利用して、財産の管理を第三者に委託する方法もある(https://souzoku.suumo.jp/article/1207 )。また自分の判断能力が衰えたときに備えて、本人が「任意後見受任者」を選び、公正証書を作成して任意後見契約を結んでおく備え方もある。
しかし親本人が気づいて行動しない限り、周囲がこうした働きかけをするのは難しい。現実的には認知症の症状が進行し、施設への入所を検討せざるを得なくなり、資産の売却となったときに「意思が確認」できないことにあわててしまうケースが多いだろう。また、医師による認知症の診断を拒む人が多いのも事実だ。
認知症を発症した後には、取れるべき手段が非常に少ない。しかし、成年後見人制度による理解を深め、もし親に成年後見人が必要となったら誰を選任するのかといったことをイメージしておくべきだ。

正解がない問題なだけに、同世代には悩んでいる人も多いはずだ。友人、知人と話してみる、さらには自分の将来に備えて任意後見制度について調べる、市民後見人の講座を受講してみるなど、行動を起こす方法もあるだろう。

 

取材・文/阿部 祐子(ライター、CFP)  取材協力/司法書士・清澤晃さん(清澤司法書士事務所代表) 写真/PIXTA

 

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